世界最大の都市・東京は、いつも変化が激しい。
100年残るものなど無いかのように見えながら、探すと400年の歴史を感じられる、そんな街。
都心の片隅に、ひっそりと、いや、騒々しさの中に佇む小さな木造の建物も、100年の歴史を繋ごうとしていた。

山手線、原宿駅。
令和2(2020)年8月の現在、あと1週間でこの木造の建物の紡いできた歴史に終止符が打たれることとなった今、それまでに考えてきたことを振り返りたい。
昭和39(1964)年、小さな駅舎は東京オリンピックの表玄関となっていた。
高度経済成長の中、「殺人的」なラッシュに小さな駅舎は限界を迎えていた。
……が、なぜか、不思議なことに、機能的な駅舎に建て替えられることはなかった。
高級住宅街だった原宿の街は、いつの間にか若者のファッションの街と呼ばれるようになり、令和のいままでずっと、「ヨーロッパ風のかわいい駅舎」はその風景の一部となっていた。
そんな原宿駅に変化が迫ろうとしたのは、平成28(2016)年、初夏のこと。
マジかっ!?
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) June 5, 2016
原宿駅のあの可愛い駅舎が解体の危機!?
・・・ではあるけど、あの小さい駅舎であれだけの乗降客数を裁くのはそもそも無茶で、
でも、その無茶を無理矢理に長年続けてたから、今、その駅舎の価値が見直されてるところで。
複雑。
原宿駅の駅舎、と言ってすぐに思い出したのがこの本。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) June 5, 2016
ふだん、あまりにも人が多いから、駅舎の写真をうまく撮れなかった個人的な思い出。 pic.twitter.com/IETTAbFiTI
このとき、6月5日は、新聞等のニュースに出た段階。
6月8日、新駅舎の概要が発表される。
2度目のオリンピックに備えた「遅すぎる」新駅舎の登場だった。
そっか、#原宿駅 建替えの内容が決定かー。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) June 8, 2016
正直、この駅舎が乗客を捌けなくて悲惨なので、建て替えはやむなしと思っている。https://t.co/tP7ztmMOQH
でも、それは建築の価値とは関係ない話。
駅舎の北(図右)側に駅舎を曳家できそうな空地があるから、期待してる。
しかし、このときは、旧駅舎が解体の危機にあるとは、露とも思っていなかった。
移築の必要はなさそうなので、早めにJRと行政とが合意をとってほしいところ。そしたら、駅舎自体はそのまま残るはず。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) June 12, 2016
移築の必要がないのは、保存に配慮したというより、仮駅舎を作らなくて済むほうが理由でしょうけど、いずれにしても保存への道は明るく開けてる。
「街も駅も愛されそれ故に、原宿駅建て替え雑感&みんなの感想」 https://t.co/hQ2VUPUF2m
風向きが怪しくなってきたのは、同じ年の9月。
原宿駅の駅舎は、(誰が維持費を出すかが未定だから)発表してないだけで保存が前提と思っていましたが、どうもそうではなかった様子。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) September 28, 2016
新駅舎は現駅舎を避けて建てるので、遺すのは容易!
—
特集ワイド:原宿駅舎、解体に待った!https://t.co/cxlcP2AKjB
新駅舎が着工される平成29(2017)年1月になって、悲観的な見方が出始めたのです。
現駅舎はどうにもこうにも狭いので、抜本的な改良が必要だったのは確かです。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) December 8, 2016
そして、改良途中もいまの機能を失わないようにするには……すぐ隣に増築するのが最良!
..「さよなら原宿駅、大正時代の駅舎がいよいよ1月から改良に着工」 https://t.co/K8DV3qFtuT
原宿駅問題は、この図を理解していただくのが論議の大前提です。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) February 15, 2017
現駅舎を壊すことは、新駅舎の必要条件ではありません!
(むしろ、現駅舎を切り替えまで活かし続けて、仮駅舎を作らないことがこの新駅舎の設計条件かと。) https://t.co/6gSk3X7mOo
でも、この時点では、私は楽観的でした。
所在地の渋谷区とJR東日本の間で保存方法(文化財指定と、保存にかかるお金の出どころ)について調整が終わるまでなにも発表できないものと理解していましたから。
それから、2年半。
年後もかわり、オリンピックの開催が迫った令和元(2019)年の秋のこと。
#原宿駅 を今のままで守るには、 #建築基準法 の適用を受けないようにしなければならない。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
そのための道は、大きく2つ。
・鉄道施設として維持し続けること(法2条1項1号)
・重要文化財としての仮指定を受けること(法3条1項1号)
だから、#原宿駅を重要文化財に できないでしょうか? https://t.co/DlR6oZYARz
#原宿駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
駅を1日たりとも止められないが故に、新しい駅舎は、この木造駅舎を避けて建設されています。
だから、原宿駅舎は、物理的にはそのまま残すことができます。
本物が今あるのに、なぜわざわざレプリカを作るのですか????
存在価値を認めるなら、本物を遺しましょうよ。
#原宿駅を重要文化財に#原宿駅 舎を壊さざるを得ない、となってしまった事情と、なぜ #重要文化財 にする必要があるか説明します。
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
そもそも駅舎は建築の形をしていても建築基準法の建築物から除外されています。
都心部には、「防火地域」の規制がありますが、鉄道施設であれば規制を受けません。
#原宿駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
しかし、 原宿駅舎が鉄道施設でなくなると建築基準法の建築物になります。建築物でなかったものが建築物になるので法規上は「新築」であり、現行法規の適用を受けることになります。
(仮に当初から建築物だったのであれば、建築基準法制定前から存在した既存建築物となります)
#原宿駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
そして、防火地域では、100平米を超える建築物は耐火建築物、それ以下でもすべて準耐火建築物とすることが求められます。
木造の耐火または準耐火建築物は可能ですが、それは木の構造体(主要構造部)が燃えないように被覆することで成立しています。
(例はシェルター COOL WOOD) pic.twitter.com/0ui0otnCqd
#原宿駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
そこまで理解した上で原宿駅を見ると、木の構造体が外観に表れており、被覆すると今の姿を維持できないことが容易に理解されます。
だからこそ、JRは「見た目を再現するには解体新築せざるを得ない」とするのでしょう。 pic.twitter.com/4dolzNPx4n
#原宿駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
つまり、鉄道施設でなくなればこの建物は何も変わっていないのに、建築基準法違反になってしまう残念な現状があるのです。
では、建築基準法を適用しないのは、何があるか
・重要文化財に(仮)指定されたもの
・保存建築物て建築審査会の同意を得たもの
は適用除外になります。 pic.twitter.com/0yvFAxznl7
#渋谷駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
で、渋谷駅舎に重要文化財に値する価値があるかということで、重要文化財になった他の駅舎と比較する。
大正13年築の駅舎は門司港駅・東京駅丸の内駅舎(ともに大正3年)より新しく、大社駅(写真)と同じ年。建築史と鉄道史をあわせて、重要文化財にできる価値はありそうですね。 pic.twitter.com/Nw4l0qgnkV
#原宿駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
と、いうことで、鉄道施設でなくなる前に重要文化財ないし保存建築物にしてしまうのが正攻法となるわけです。
このうち保存建築物は文化財保護法182条2項により自治体の条例で定めることができるのですが、所在地の渋谷区文化財保護条例では特に記載なし。
この時点で、商業施設としての開発が念頭に置かれていたそうです。
いわゆる、腰巻きビル。
面影がなくなるよりはマシではあるのですが、歴史を残していると言えるのか…
#原宿駅を重要文化財に
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) November 19, 2019
このハッシュタグを広めていただければ、#原宿駅 の駅舎が新しい駅の隣に今の姿を残せるのではないかと、淡い期待をしています。
原宿駅解体の衝撃と、物理的に残せるものを法規の隙間に入ってしまう故に壊さねばならない無念さを感じ、
文化財指定に一縷の望みを託します。 https://t.co/e8PfOgVBgF
それで、淡い期待をしてしまいましたが、正直、保存運動としては遅きに失したと言わざるを得ないもの。
この2年半の間、私がそうだったように、多くの方が楽観的に構えていたのでしょう。
ましてや、私は渋谷区民でも東京都民でもない完全な部外者で、建築家や学者のような(業界内での)影響力もない。
そして間もなく、このような報道が出ることになります。
「復元する駅舎は、新たに建設する商業ビルと一体的に活用する。延べ面積は620m2ある現駅舎の約4分の1に当たる150m2。」
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) December 3, 2019
結局、#腰巻きビル かい!
JR原宿駅が解体へ、保存せず復元するワケ https://t.co/UFFRrRcuu5
原宿駅も結局のところ、毎度おなじみの #腰巻きビル 化して都心の一等地を活用したいという話で、そんなお金勘定が出来上がってしまうと #原宿駅を重要文化財に なんて部外者が言ったって全くの無力なのは、数々の名作が「本物」を残せなかったことから分かるとおりです。https://t.co/briIPnMzxg
— 社会建築もぐり/なかみねひろえ (@sha_ken_mogri) December 3, 2019
そして4月、決定的な記事が出ます。
あの #原宿駅 旧駅舎の経緯と今後がわかりやすい記事。
— 社会建築もぐり/なかみねひろえ (@sha_ken_mogri) April 2, 2020
・渋谷区は「そもそも文化財指定するものではない」と認識
・JRは「現段階ではできるだけ木造駅舎に近い形で建て替える方針」
こりゃ、保存は無理やわ。
文化財としての価値がないという認識で一致してたのか(´;ω;`)https://t.co/wei4J6GRUi
なお、私は原宿駅が重要文化財に指定できるだけの価値があると考えていますが、現状のまま保存できない事情も承知しています。
— 社会建築もぐり/なかみねひろえ (@sha_ken_mogri) April 2, 2020
(防火地域で木造建築の新築は不可能。法律上、駅舎でなくなった途端に新築の建築物になってしまう。)#原宿駅を重要文化財に
↑前にこの件を連続ツイートしたときのタグ
狭い敷地で、商業ビル化…ということで、建て替えられる姿にに全く期待していなかったのは、この通り。
旧駅舎の跡地は商業ビルになると発表されてるので、「木造駅舎のイメージを復元する」と言われても腰巻きビルのひどい奴にしかならないでしょうね。 (三角屋根だった建物を腰巻きビルにしたときの相性の悪さは神戸地方裁判所の庁舎で問題になった通り・・・ましてや、ここは元が木造だし) だから、江戸東京たてもの園に持っていってもらうほうに期待してます。https://t.co/QQCFhV7GGI
— ひろめぐ(社会建築もぐり) (@Hillomeg) June 4, 2020
「久々にJR原宿駅に行ったら「完全に知ってる感じじゃない」レベルで近代化して旧..」https://t.co/1vTibeRlGt にコメントしました。
ところが、JR東日本(と、JRE設計?)は、本気でした。
渋谷区が文化財指定させなかったことへの無念を感じていることが伝わるほどに。
あれ?商業ビルにして収益を上げる話はどこへ?
— 社会建築もぐり/なかみねひろえ (@sha_ken_mogri) August 7, 2020
木造駅舎の屋根まで復元したら、全然容積消化できないですが?
そして、 #原宿駅を重要文化財に したら、儲からない建て替えのために余計なコストをかける必要ないですよ?
原宿駅の旧駅舎 月内解体着手 木造駅舎は建て替えへ https://t.co/WlJ95fdWPC
ぼやかしている右側に、商業ビルを1棟の建物として建設し、旧駅舎復元部分をその入口として使うのでしょうか。
駅舎の「ゲート」としての役割を意識した、好ましい計画に見えます。
しかし、表面上好ましいからこそ、もやもやとした思いが浮かびます。
このような「復元」を決めたということは、今ある本物が移築されることもなく完全に消えることと同じなのですから。
【2020/8/24追記】
そして、解体前日となった8月23日、ひとり、東京に行ってきた。「コロナ禍」のなか、人に会わず、ただ街を歩き、ただ建物に会うための旅に。



この建物を遺せなかった事情も、愛されて来たことも、そして所有者のJR東日本が真摯に向き合ったこともわかるだけに、きょう8/24に始まる解体は、切ない。